Mosuke Yoshitake芳武茂介について


芳武茂介(よしたけもすけ) 「デザイン多々益々弁ず」

「デザイン多々益々弁ず」 芳武茂介(よしたけもすけ)
日本デザイナー・クラフトマン協会理事 武蔵野美術大学教授 

戦後のデザイン運動は産業の復興にともなって急速に伸び、驚くような短期間で、モノの豊かな社会の建設に一役を演じた。目新しい機器類を大量に家庭に送りこんだ工業デザイン、映像や音響を新しいメディアに加えたコミュニケーションデザイン。ともにデザインをよく弁じて、それを世に認識させた役割は大きい。

 それにくらべると、昔から使い、今後も相変わらず使われるであろう金もの、塗りもの、陶磁器、木竹雑貨などの什器は、デザインを派手に変えるべき新材 料、新技術、新用途のはいり込む余地が少ないためか、デザインを派手に弁じたとはいえぬようだ。アルミニウム、合板、プラスチックスが雑貨に進出しても、 工業デザインとする見方もあり、陶磁器が食器から建材に幅を拡げても什器にはならない。さらに生活文化に対する日本人の伝統的な考え方として、この領域を ダイナミックに変貌させない次の理由もひそんでいる。
自然に融合する文化を野蛮なりとする西欧的な考え方に対し、日本には自然と対決し、征服する考え方は薄い。文明の情感的な表現である美術においても、美そ れ自体の生命的表現にむかう超俗的美学に対し、日本のそれは生活的芸術、工芸的芸術とさえいわれる。日本人の文化文明観は生活を超越せず、生活は自然に順 応融合することを好んだ。
自然から分離隔絶する考え方は、西欧に及ばないが、自然と融合する領域では、独自の発達をとげてきた。自然と人間の接点におけるいとなみ、衣、食、住の道 具に示した造形が、日本の伝統的デザインとして、内外の注目を浴びるようになったのも、実にデザイン運動の成果であろう。ただしそれからのデザインは長い 間沈黙を続けていたのだった。
 このような日本の伝統的デザインは、文化文明の一大転機を迎えようとしている今日、どんなかかわりを今後に持ち得るだろうか、あるいはうしろ向きの低回趣味として消え去るものだろうか。
 モノの豊かな社会に反発するいろいろな声が世上を賑わす。いわく「主体性」「自己顕示」「ハプニング」「多様化」さては「フィーリング」―と。
 社会生活上のすべての造形がデザインなら、デザインは多々益々弁ずることになるのだが、いささか「意識過剰」が気にかかる。

産業デザイン:昭和46年2号
発行:日本産業デザイン振興会

[2018.02.16]


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